ママにもわかる発電の話 ~原発のリスクと脱原発のリスク~

震災以降,選挙の度に争点と言われ,そのたびに圧倒的な民意によって否定され続ける脱原発

脱原発が否定されるのは当たり前だ.科学的視点でちゃんと現実を見ている大半の有権者にとっては,それ(即時脱原発)がいかに荒唐無稽な夢物語であるかは明確だからだ.

簡単に言うと原発は確かにリスクを抱えた存在ではあるが,一部の人が騒いでいるほど危険ではないし,今無くなるともっと厄介な問題が発生するということが,普通の人にはもうわかっている.

いま騒いでいるのは,わかっているけど別の目的がある人たちと,引っ込みがつかなくなっちゃった人たち,そして正しい情報を知らされないまま恐怖心によって支配されているお母さんたちだ.そんな人が一人でも減ることを願う.

※2年近く前に書いた記事だが,東京都知事選を前にこの記事のことを思い出したので,加筆修正した.



ここんとこの原発騒ぎの印象として,そもそも発電というものがどういうものかがわかっているのかいないのか.政府や電力会社に対する不信,言葉の印象をことさら煽り立てる人が後を絶たない.そして彼らに煽られるがままに漠然とした恐怖心に苛まれて盲目的に反原発を叫ぶ人が結構居る.特に主婦層

というわけで,自分の知識の整理も兼ねて,発電にまつわる電気の話を俺が知ってる範囲で,できるだけ解りやすくまとめてみようと思…ったらかなり長くなってしまった.すみません.

とりあえずこのエントリの目標は,科学的なものにあんまり興味の無いママさん方にも発電というものを理解していただくこと.差し支えなければ家事の合間にでも読んで頂きたい.



(1)電気は貯めておけない

意外に思う人も居るかもしれないけれど,電気を電気のまま貯めておくっていうのは今の技術では不可能.いや実験レベルでは超電導とかで可能だったりもするけど,実用化はまだまだ先の話.

で,どうするかというと,電気のエネルギーを保存しやすい別のエネルギーに変換して貯めておいて,必要なときにそのエネルギーで再発電するわけ.

ただしエネルギー変換にはロスがつきもので,電気のエネルギーすべてがそのまま貯蓄できるわけではない.だから,用途に合わせてなるべく効率の良い方法を選択するわけ.代表的なものを以下にざっと挙げておこう.



■化学エネルギー
一番身近なのがバッテリー(蓄電池)か.繰り返しになるが電気そのものを貯めているわけではない

電気で化学反応を起こすことで,電気エネルギーを化学エネルギーに変換して保存しておき,必要なときに逆の科学反応で電気を起こすというもの.車や家電,電子機器などに用いられる小規模なものは一般的だが,残念ながら現在の技術では大規模な蓄電池は効率く,寿命や価格の面からも実用にはまだまだ多くの困難が伴う.

また,最近脚光を浴びているものに水を電気分解して水素を作って保存し,必要なときにその水素を使って発電するという方法(燃料電池)などもあるが,現時点ではやはり効率や水素の取り扱いの難しさがネックとなって実用化にはもう少し時間が必要だ.

■熱エネルギー
次に身近なのがこれ.電気温水器とか氷蓄熱空調なんかは実際に使ったことのある人も多いはずだ.

電気でおを作り,断熱材などでその熱エネルギーを保存するというもの.あまり長時間は保持できないし,再発電に使える程の熱エネルギーを貯めておけるわけではないが,給湯や空調など電気を日常的な熱エネルギーとして利用する用途に向いているため,古くから広く利用されてきている.

■位置エネルギー
揚水発電がこれにあたる.

電気ポンプでダムに汲み上げることで,電気エネルギーを水の位置エネルギーに変換して貯蓄.この水を落下させて水力発電を行い,再び電気エネルギーに変換するというもの.汲み上げと再発電で2度のエネルギー変換を行うためロスはきい.

発電
と名は付いているものの,使われ方としては効率のよくないバッテリーのようなものだと考えた方が近いのかもしれない.

上に列挙したエネルギー変換をざっと見て,どれも共通しているのは,効率があまりよろしくないこと.

やっぱり,現在の技術では基本的に電気は貯めておけないものである.という前提に立って考えた方がよさそうだ.

というわけで,発電の話に戻る.


(2)需要にピッタリ合わせて供給(発電)する必要がある

電力需要は,人々の暮らしに合わせて絶えず変化する.

簡単に言うと,みんなが寝てる時(深夜)は需要が低く,みんなが起きて活動している時(昼間から夜)は需要が高い.その他,地域や気候の変化等も電力需要に大きく影響を与える.

ちなみに,最も大きなピークはお盆頃の昼間,暑さのピークと夏休みで在宅率が高いこと,また「夏の甲子園」で多くの家庭でテレビを使うこともその要因のひとつとされている.

電力需要
#図 電力需要

で,ここが重要なんだけど,前に述べたように,電気が貯めておけないものである以上,発電する側としては需要量ピッタリ合わせて発電をしてやる必要があるわけだ.

発電量が多すぎたら電力を捨てなければいけないし,足りなければ過負荷で発電所がブッ壊れる事になってしまう.

まぁ通常は壊れる前にわざと部分的に停電させて凌いだり,最悪の場合非常停止して設備を守るのだが,どちらにせよ電力供給が足りなくなった時点でどこかが停電するのは免れない.

そのため,発電設備を建設・運用する際にはピークをカバーできる規模を確保する必要があるんだね.

加えて,電力需要というものは「あら今日なんか凄く暑いわ(寒いわ)」ってだけで跳ね上がるもの.つまり,発電設備の設計には急な電力需要に対応できるだけの十分な余裕が必要なわけで,埋蔵電力なんてものはあって当たり前の安全マージンだと言える.

この安全マージンまでを全て絞り出させるなんて馬鹿な発言をしたのは,どこかのタレント市長さんでしたっけ?


(3)深夜電力が安い理由

だからといって,じゃあデカイ発電所をガンガン建てれば安心ね…というわけにもいかない.その設備投資費は電力会社の経営を圧迫し,ひいては奥様方が毎月気になる電気料金に跳ね返る事になる.

逆に言えば電力会社としては電力需要のピークさえく抑えられれば,発電所の規模を小さくできる=設備投資さくすることができるということ.

だから電力会社としては電力需要の平準化を推進したいわけだ.
需要平準化
#図 需要の平準化

たとえば前述の電気温水器.深夜電力でお湯を沸かしておいて,ピーク時には電気を使わずに保温しておいたお湯を使う.みんながこうすれば,ピーク需要を低くできるから設備投資が少なくて済むわけ.つまり深夜電力ってのは,「ピーク時に電力需要を抑える生活スタイルに協力してくれれば電気料金を安くしますよ」っていう,電力会社からの提案なわけね.



(4)発電方法の使い分け

発電にはいろんな方法があるのはご存知の通り.

ただ,それぞれに得手不得手があって,使い分けるものということはあまり認知されていないように感じる.

ざっくり言うと

■原子力
発電量: 大
燃料:  安い
制御:  ほぼ一定(変化が苦手
※出力の上げ下げが燃料棒など設備の寿命に悪影響を与えるとされる

■火力
発電量: 大
燃料:  高い(燃料の種類によって差がある)
制御:  容易(変化に強い)

■その他(地熱・水力など)
発電量: 小
燃料:  なし(自然エネルギー)
制御:  ほぼ一定(変化しない)


発電方法によって上記のような特性があるので,燃料コストは安いけど出力を変化させづらい原子力によってベース電力を支え,供給力を変化させやすい火力が刻々と変化する需要に追随する部分を担当することで,全体として最適な効率になるよう運用されるわけね.

発電分布 
#図 電力供給力分布


(5)揚水発電

上の図に書いちゃったけど,深夜などの余剰電力でダムに水を汲み上げ,ピーク時に水を落として発電する揚水発電は,発電力も大きくレスポンスも非常に良いため,ピーク時の発電に欠かせない切り札的存在だ.

さんざんロスが多いと書いた揚水発電だけど,もともとこの水の汲み上げに使う電力は,深夜の電力需要が落ち込んだ時の原発余剰電力を想定しているから,多少のロスがあっても揚水発電が実用的に運用できちゃうってわけだ.つまり揚水発電と原発はセットで建設・運用されるものだと考えていいだろう.

わざわざ汲み上げた水で発電するなんていう,一見無駄な行為にはこんな理由があったんだね.

ちなみに,原発停止して余剰電力もクソもないときに,この揚水発電を「電力会社が隠し持っている埋蔵電力だ!」なんて騒ぐ馬鹿が大量に沸いたのを見たのが,この記事を書こうと思ったきっかけ.


(6)自然エネルギー

とまぁ,ここまでの話で,発電というのは,こういう絶妙なバランスの上に成り立っていたんだな.ということがだいたい解って頂けただろうか.ただ発電機回しゃぁ良いってもんじゃないんです.

その上で,なにかと話題の太陽光風力などの自然エネルギー発電だが,これらは地表付近で行う以上,天候の影響を免れない不安定なものだという事は小学生でもわかる事だろう.単純な話,雨が降ったり風が止んだら発電できないんだもの.

これらの発電は,その性質からして安定したベース電力を担えるわけでもなく,かといって確実に需要ピークにあわせた発電ができるわけでもない.つまり原子力の代替にも火力の代替にもなり得ないということは,ここまで読んでくれた奥さんならきっと理解していただけるはず.

ちなみに,個人的には現時点でベース電力の代替(もしくは補助)として最も適した性質を持っているのは地熱利用だと思ってるが,いろんな事情であまり推進されておらず,まったく足りていないのが現状.

では,これらの不安定な自然エネルギーを活躍させようとすると何が必要になるのか.

ひとつは発電効率蓄電効率向上,それも今までの10倍とか100倍といった,桁が変わるレベルの飛躍的な技術革新(イノベーション)が必要になってくる.しかしそれが起こるのが5年後なのか,100年後なのか…いつになるかわからないというのが最大の問題.

もうひとつは,我々のライフスタイルの革新的後退,つまり電気を使わないライフスタイル…なんだけど,いやそれはちょっと無理でしょう?奥さんでご飯炊けますか?風呂はどうですか?エアコン無しで過ごせますか?ってことですよ.


(7)核融合って何?

現在の原子力発電は核分裂反応を利用した発電.簡単に言うと,放射性物質のウランなどの原子が二つ以上の別の原子に分裂(崩壊)する際の崩壊熱を発電に利用するというもの.

もっと簡単に言うと,放っておけばバカンと壊れる原子をイイ感じでギュッと集めておくと,バカンバカン連続して壊れ始めて(連鎖反応)もの凄い熱を出す.これをうまくコントロールして発電しちゃおうぜってこと.

高レベル放射性廃棄物さえ出なければ素晴らしい発電方法なんだけど,ご存知の通り解決の出来ていない問題はまだまだ多い.

それに対して,現在研究開発が進められているのが核融合反応を利用した発電.こちらは核分裂とはに二つの原子を融合させ,その時に発生するエネルギーで発電するというもの.

もっと簡単に言うと,あっちとこっちからもの凄い早さで原子を飛ばしてガチーンと衝突させると,くっついてひとつの違う種類の原子にになる.その時に,これまた凄い熱が出るので発電に使っちゃおうってこと.

原理としてはあの空に輝く太陽の内部で起こっている反応と同じものだ.排出するのはヘリウムのみという極めてクリーンな発電.ただしこの反応は人工的に長時間連続させることが非常にしく,発電として実用化できる技術を開発するまでにはあと数十年はかかるとされている.

また,今後研究が進んで燃料として海中にほぼ無尽蔵に存在するリチウム重水素などを使って発電が出来るようになれば,資源の心配もいらないまさに夢のエネルギー

核融合発電が実用化すれば,原発の代替としてこれまでの問題の多くが解決できると期待されているが,なぜか反核団体が反対しているという不思議.単なる無知なのか,それとも別の意図があるのか…


(8)まとめ

で,結局のところ問題は,自然エネルギーなり,核融合なりの新しいエネルギーが実用的になるまで10年かかるのか,はたまた100年かかるのかすら判らないというこの状況で,全ての原発を停止して火力発電の積み増しだけで本当に大丈夫?という点.

忘れてはいけないのが,火力発電にもリスクは存在するということ.

しかも,原発の停止によって,火力発電は余裕なしのフル稼働が続いている.このことで,これまで小さかったはずのリスクが急激に大きくなってきていることをご存知だろうか.

そもそも,多くの日本人は火力発電等によるCO2排出の増加を大きなリスクと捉え,原子力発電へのさらなる偏重を選択していたはずだ.少なくとも,2009年に民主党に投票した奥さんは自らそういう選択をしていたことになるわけだ.知らなかった?事実そうなんですよ.

日本国民が選んでしまった鳩山氏がCO2の25%削減を海外に勝手に約束し,それを実現するために既に40年稼働させて耐用年数を迎えていた福島第一原発の使用延長を決定した.その上であの事故が起こり,そのために日本は今,当時よりも大量のCO2を排出しているってのは,なんとも皮肉な結果じゃないか.

さらに火力発電の排気には,技術革新によって昔よりも減ったとはいえCO2以外の大気汚染物質が含まれていることも忘れてはならない.

もうひとつは,燃料調達リスク

火力発電用の燃料は,国外からの輸入に頼っている.現在はまだ円高であることも幸いして辛うじて調達できている(それでも大赤字なんだけど)が,国際情勢の変化や,為替変動などによって,この先どうなるかわからない.こっちが燃料を買わざるを得ない状況であれば,売り手は値段を釣り上げてくる可能性だってある.足下を見られるってやつね.

実際に民主党政権時代の行き過ぎた円高が是正されつつある今日,追加の燃料費による貿易赤字は増加しており,年間4兆円とも言われている.

金で解決できるならまだマシで,日本が原油を輸入している中東諸国や,中東から日本に向けてタンカーが通る海域シーレーン)のあたりで紛争の一つでも起こればたちまち燃料調達が不可能となり,1ヶ月も持たず大停電となり,日本の経済活動は全て停止するだろう.

この辺の事情を外交カードとして利用され,日本が国際社会で不利な立場に立たされるリスクも非常に高くなるわけだ.「油買わせねぇぞ?」って言われれば下手に出るしかないわけだ.ガスでも同じ事.

また,前述したCO2削減国際公約や,排出権取引などの新しいルールなんかも,日本の立場をさらに悪くする足枷になってくるだろう.


さらに,設備保守リスク

もともと発電所というものは,定期的に停止して点検を行うものだがこれは火力も原子力も同じ.消耗部品を交換したり,次に壊れそうな所を予防的に補修・交換したりしながら,安全性を保っているもの.

しかし,発電力に余裕が無いと停止して点検ができない.つまり故障する確率が上がってしまうという事.

今,ピーク時にどこかの火力発電所が壊れたら即停電の危機なのだ.


…おっとそこの奥さん.停電をナメちゃいけない

一般家庭なら冷蔵庫の中身とビデオの録画予約ぐらいしか被害は無いが,産業界はそうはいかない.たとえば医療機関や交通機関など,停電が許されない産業は大変だ.また製造業にとっても大打撃.停電1発で千万円単位の金が吹っ飛ぶことだって,まったく珍しい話では無いのだ.

中小企業であれば停電即倒産というのも当然有り得る.

ちなみに奥さん,日本の企業の99.7%雇用の約7割が中小企業だって知ってた?


…なんて話をすると,「経済と子供の命,どっちが大切なの!」って金切り声を上げるママさんが居る.

しかし,冷静に,もう少し広い視野で考えて欲しい.産業にとって,安価で安定した電力供給はまさに生命線.長期的に電力料金が高騰したうえに安定した電力供給が見込めないとなると,産業は生産拠点を海外に移すしか生き残る方法がない.海外に出て行く余力もない中小企業は赤字が膨らまないうちに廃業して精算するしかないだろう.

つまり日本から産業そのものが減少してしまうのだ.

そうなれば,ただでさえデフレ不況である今よりも,さらに酷い経済になることは間違いない.

お宅のダンナの首だって怪しいもんだ.

失業者だらけで,治安も悪化し,安全な食料は高嶺の花.
そんな日本になったら,子供の命,守れますか?


そう言うと,「じゃあアタシ海外に逃げるわ」という人も居る.でも現実問題として

移住先に家族を連れて渡航して,住まいを確保するだけの蓄えはある?
移住先で言葉を覚えて仕事が見つかるまで家族が本当に食い繋げる?
そもそも家族を連れて受け入れて貰う先は決めてある?

この程度の質問に余裕で即答できるぐらいでないと,絵に描いた餅ですよお母さん.

確かにひとたび原発で事故が起これば,その被害は大きなものになる可能性があり,これは大きなリスクだといえる.

しかし,全ての原発を今すぐ止めてしまうことで生じるリスクも,じつは同じように子供の命がかかっているレベルのものだという事.お母さん達はこの辺をちゃんと理解する必要があるんじゃないか.

「危険なものはこの世からなくしてしまえ!」

ヒステリックにこう叫ぶお母さん達の気持ちはわからんでもない.怖いと思うのは当たり前

だが落ち着いてほしい.怖いからこそちゃんと観ないとダメ.怖がるなら正しく怖がること.

怖いからって目をつぶって走り出して,その先にもっと危ないものがあったらどうするの?


急な告白になるが,俺は被爆者三世だ.母方の祖母が唯一広島原爆を受けたが,80歳をだいぶ超えた今も大病一つせず健在.母も私も祖母の遺伝かいたって健康だ.

一方,炭鉱で化石燃料掘ってた爺さんはとっくの昔に亡くなったし,事業に失敗した父方の祖父母はもっと前に亡くなった.ね?リスクは原発だけじゃないんです.

ぶっちゃけ今騒いでる程度の線量での放射線のリスクなんて,俺に言わせりゃ大したことない.みんなビビりすぎ.

そもそもこの程度の放射線なんて,我々は太陽大地から,それこそ生まれる前から浴びまくっている.放射線よりももっと有害で危険なものは身の回りにいくらでもあるんです.

もともとこの世にリスクゼロなんてあり得ない.だから

何をリスクとするのか
どうやればリスクを低く抑えることができるのか
どの程度のリスクだったら許容できるのか

このへんのことを,今こそ感情論ではなく冷静に判断しなければならんのですよお母さん.

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[ 2012/04/28 02:11 ] つぶやき放題 | TB(0) | CM(0)

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